忠実なお仕事
妻の用事で家から一番近い百貨店に行った。妻が何人かの方々に御礼のものを送るということで少し時間がかかりそうだと言う。さて、困った・・・どこで時間を潰そうか・・・。そこで目についたのが「アートギャラリー開催」のポスター。妻にここにいるからとそのポスターを指差し、8Fの会場へ向かった。
フロアの奥の片隅に見つけることができたのだが、イメージよりもかなり小規模。しかも、誰もいない様子。勇気を持って入って絵の前に立つと、店員らしき女性が寄ってきてその絵の解説を始める。静かに見せて欲しいのに、絵の横から手を絵の中に手を入れながら隙間なく喋ってくる。参った・・・売りたいのはわかるが、私が絵を買うように見えるだろうか・・・。客は私一人だけなので、マンツーマン状態で磁石のようにくっついてくる。絵をゆっくり楽しみたいという思いと、早くここを出なければという思いが交錯しながら、少し早いペースで絵をやり過ごして出口に近づいた頃、荻洲高徳の絵が登場した。
荻須高徳の絵はある美術館で初めて出会ったのだのを思い出す。実はその日は佐伯祐三の絵を見にその美術館に行ったのだが、お目当ての佐伯祐三の絵は貸出中だったのだが、その美術館では荻須高徳が企画展示されていて、「あれ?佐伯祐三の絵かな?」と思ってしまったくらいに空気感が似ていた。私は、一気にその世界に入り込んで荻須高徳の名前がインプットされた。
その荻須高徳の絵がここにある。おそらくパリだろうと思われる街を描いたものなのだが、店員の存在も忘れその絵の前で釘付けになってしまった。幸い奇跡的に店員が静かにしている。ところが、ここで大きな失敗をしてしまった。「これ、原画ですか?」と店員に聞いてしまったのだ。「これはリトグラフですね。版があるのですが・・・・」と店員が堰を切ったように解説を始めてしまい、またまたその絵の世界から引き摺り出されてしまった。折角黙っていたのに・・・・やってしまった。
でも、考えてみると店員さんは忠実にお仕事をしたまでのこと。作家さんがこの作品を生み出すのに、貧しさと苦悩があったことを知らないといけない。それを時間潰しにタダで見ようとした私が愚かだった・・・反省。